赤い惰性日記 / Red Inertia’s Diary

徒然なるままに惰性で😎

愛と追憶のウェスタン


Brooks & Dunn - How Long Gone - YouTube

 Brooks & Dunnの'How Long Gone'は、カントリーを聴き始めた最初期に好きになった曲だ。1998年頃からカントリーを聴いているが、きっかけになったのは自宅に引いていたケーブルテレビの中でCMTというカントリー専門局を偶然見てからだ。それまではクイーンばかり聴いていて、音楽局のプログラムでCMTを見たのも、クイーン関係の映像を観ようとしていたからだ。

 'How Long Gone'の歌詞は、当時中学生だったので完全に把握はしていなかったが、クイーンの重厚な(ときに重厚過ぎるほど)コーラスワーク、ギターオーケストレーションと比べてブルックス&ダンのこのシングルは、非常にシンプルに聴こえた。プロモーション・ビデオの雰囲気もとてもよかった。同時期カントリーのヒットチャートに入っていたのがAlan Jacksonの'I'll Go On Loving You'、今になって振り返ると好きな曲だが、チャートインしたアーティストの過去作をCMTが紹介してくれていて、むしろこちらの方が好きだった。


Alan Jackson - Livin' On Love (Official Music Video) - YouTube

 

大震災の後の街

 当時、住んでいたのは兵庫県の芦屋市だ。毎週末、休みになるたび自転車をこいで片道1時間弱、神戸市三ノ宮、元町、新開地へと行ってはクイーンの中古レコードを探していた。阪神・淡路大震災が1995年の1月のことだったので、街のところどころにはぽっかりと空いた更地、解体途中の傾斜した建物などもまだたくさんあった。

 中学校が退けて、帰宅するなりWindows95を起動しては、クイーンのファンサイトでやり取りをしていた。同時期にカントリー関連のサイトを見るようにもなった。

 大阪福島駅のそばにCharlie Co、三ノ宮にはゴールドラッシュというウェスタン・ウェアの店があることを知った。どちらも自転車で行くには同じくらいの所要時間だったろうか。その頃には、すっかり上を走る阪神高速も復旧した国道43号線国道2号線を自転車で駆けて行った。 
f:id:FujiyugaokaUsuke:20190520224323j:image

 これはチャーリーで初めて買ったJustin社製のカウボーイ・ブーツだ。店主のチャーリーさん(日本人)にネットで調べて来たこと、カントリーを聴き始めたばかりという話をして、確か、1万円くらいにしてくれた。その後も、チャーリーさんの店にはしょっちゅう通って彼が入れてくれたコーヒーを飲んで、彼のアメリカ大陸時代の話などを拝聴した。カウボーイが履くジーンズはラングラー13MWZ、などなど色々な話を伺った。

 ゴールドラッシュは、三ノ宮エリアに何店舗か店を構えていたのだが、本店の社長は実にオシャレでカッコいい方だった。彼にはカウボーイブーツ選びのコツ、「お店によってウェスタンの捉え方が全然違うから自分に合った店を選ぶんだぞ」、そして「ブーツはズボンの裾からチラリと見えるステッチがカッコいいんだ」と教わった。数年後、残念ながら社長は、闘病の末がんで他界したと、奥様からお伺いした。
f:id:FujiyugaokaUsuke:20190520224225j:image

 あれから20年以上経つがもちろん、現役だ。ゴールドラッシュの社長の教えも守っている。大阪梅田には、現在、阪急メンズ館になる前から、Funnyという店がある。これは、東京ディズニーランドのそばにあるイクスピアリ内に支店もあるので、関東に越してからも世話になっているが、ガラスケースの中に並ぶとても中学生には買えない純度の高いシルバーのバックル、棚にズラリと並んだオーストリッチやクロコダイルの革をおしげもなく使ったカウボーイブーツ、そしてハット、店内に入るだけで大阪からテネシーを訪れたかのような気分になる。いまでも、ごく稀に帰阪するときは必ず寄っている。 f:id:FujiyugaokaUsuke:20190520230843j:image

 アラン・ジャクソンのシグネチャーモデルのハットを買ったのは、Funnyだ。

 

新曲はまだか?

 クイーンに関しては1995年のアルバム"MADE IN HEAVEN"からだったので、1997年には"QUEEN ROCKS"その後、ブライアン・メイの"ANOTHER WORLD"、ロジャー・テイラーの"ELECTRIC FIRE"とソロ作を手に入れつつ、過去作をたどるより他なかった。リアルタイムで聴くことが出来たクイーンとしての新曲は'No-One But You'のみだ。しかし、彼らの新作はどれだけ待っても期待することが出来ないのは分かっていた。

 フレディ・マーキュリー亡き後、クイーンのファンになった自分にとって毎週楽しみに出来る音楽のジャンルはカントリーになっていた。余談だが、ジョージ・マイケルもその頃に"LADIES AND GENTLEMEN"、翌年には"SONGS FROM LAST CENTURY"を出してくれているが、SONYミュージックとの訴訟などで、新作の発表がかなり制限されていた時代でもあった。新曲を期待するというのは、望めない、もしくはそれが難しい人達のファンになったものだと改めて思う。

 ともあれ、それ以降、自分はカントリー・ミュージックをメインのジャンルとして聴いている。よく聞かれるのだが、「クイーンはどのアルバムを聴くんですか?」答えはいつもこうだ「脳内でコーラスの和音からギターソロまでいくらでも自動再生出来るから、カントリーしか聴きません」。たまには聴くけれど、稀だ。


Brooks & Dunn - Missing You - YouTube

 「ハウ・ロング・ゴーン」が収録されていたアルバム'IF YOU SEE HER / IF YOU SEE HIM'の後、毎週観ていたCMTのヒットチャートに登場したのがこの'MISSING YOU'だった。VHSに録画して、赤と白のプラグをデッキの裏側にさして、録音機能つきMDへ取り込んだ。このジョン・ウェイトが80年代に出した曲のカバーを含むアルバム"TIGHT ROPE"は当時、かなり評価が低かったのだが、幸か不幸か新参者にしてFar Eastの住民で、さらにはいまほど情報もない時代の自分にとっては、待ちに待った新作だった。同じ頃アラン・ジャクソンは"UNDER THE INFLUENCE"という往年のカバーソング集を出していて、チャートは賑やかだった。ブラッド・ペイズリーが新入りだった時代のことだなんて、いまにして思い返せば笑えてしまう。

 

そしてイングランド

 2000年からイングランドの高校に進んだ。日本人学校だが、なんだかんだ言ってもクイーンが好きなのだ。やることと言えば毎週末ロンドンの中古レコード店へ行って過去作を探すという、芦屋に住んでいた頃と大して代わり映えのない日々だったが、ピカデリーサーカスのタワーレコードで、必ず目を通すのがカントリーのコーナーだった。困ったことに、自宅と違ってCMTが観られないのだ。もちろん、夏や冬の長期休暇には帰国しているので、まとめて確認はするのだが、実際、イングランドで最新のカントリー・ミュージックのヒットチャートを確認するというのもおかしな話である。ただ、ありがたいことに、同じ英語圏であり愛好家が日本よりも多いのだろう、タワーレコードHMVどこの店でも確認はできた。

 ただし、ロックをまったく聴かないわけではない。当時デビューしたばかりだったTHE VINESのデビュー作"HIGHLY EVOLVED"はいまでも、最高に好きだ。


The Vines - Get Free - YouTube

 残念ながら、彼らは半ば活動休止状態で、本当にロックやポップに関しては巡り合わせが悪い気がする。

 

解散

 日本に帰ってからも、カントリー、主にアラン・ジャクソン、ブルックス&ダン、ジョージ・ストレイト、ガース・ブルックス、ブラッド・ペイズリー、リーバ・マッキンタイアらに、レディ・アッテンボロー、その他諸々よく聴いて過ごした。

 学生時代も終わり、社会人になっていた。911のテロの後、アフガニスタンイラクでの戦争を経て、カントリーというジャンル愛好家として色々な政治的対立なども見てきた。「大人になったんだよ」とため息混じりに苦笑いを浮かべていた2009年のある日、予想外のニュースが飛び込んできた。ブルックス&ダンの解散である。90年代から2000年代、自分の音楽人生を支えてくれたデュオの解散はショックだった。"LAST RODEO"と銘打たれたツアーを最後に彼らは解散した。


Brooks & Dunn - Indian Summer - YouTube

 これが当時彼らが出した再後期の新作'Indian Summer'だ。中学、高校、大学(これは1年だけだが)、そして社会人となってからもロマンスの背景音楽にはロニーの艶と哀愁に満ちたボーカルがあった。恋だけではない、仕事、人間関係、そして猫を飼ったり、色々なことがあった。ある時代の終わりに、(日本語にすると「小春日和」となってしまうが、「インディアン・サマー」はそのまま使いたい)ふいに舞い戻ってきた熱情を感じた。当たり前のように、そこに居たものとの別れが来るとは胸に込み上げてくるものがある。そして、彼らは人気の絶頂でシーンを降りた。

 だが、幸いなことに、ロニー・ダンはその後すぐにソロ作をリリース、キックス・ブルックスもそれからしばらくして新作を出してくれた。

 

#REBOOT

 世間(というよりもやつがれのTL)が、『ボヘミアン・ラプソディ』旋風で賑わっているさなか、2019年の2月に信じられないツイートが流れてきた。ブルックス&ダンが再びスタジオに入るというのだ。

 実際には解散の後もリーバと共に3人でベガス公演をしたり、CMAなどに顔を出していた2人だったが、まさかの新作である。

 

Reboot

Reboot

 

 実際には、デビュー作から解散までの間に彼らが飛ばしたヒット曲を、ルーク・コムス、ミッドランド、アシュリー・マクブライドら若手のシンガーやバンドとのコラボレーションするような形ではあったが、新作は新作である。


f:id:FujiyugaokaUsuke:20190521000816j:image

 公式オンライン・ストアで2人のサイン入りCDが発売されていたので、迷うことなく購入した。

 

How Long Gone ?

どれだけ俺はちゃんとプランを立てた‍?

ろくに理解できてもいなかったくせに

愛しい人、もしも帰ってきてくれるなら

どうか俺に教えておくれ

教えておくれ、君がどこまで遠くへ行ってしまおうというのか

 時間の流れはときに残酷だ。いまとなっては、去ってしまった恋人たち、友人たち、二度とは会えないゴールドラッシュの社長、そして3月に息を引き取った最愛の黒猫フェリックス。これからも、この人生は続いていくけれど、音楽を聴けばいつでも思い出すことが出来る。ただ最後に笑顔でこう叫びたい。

 

Welcome back Kix and Ronnie !!